ブブ美エクスペリエンス

ブブ美が体験したことや気になって調べたこと、実際に試した結果(人体実験)を発表しているブログ。ネットで見つけたレシピを作った感想なども書いてます。

犬を飼う

 私の元に犬がやってくるようになった。私よりも大きな体躯の長毛の大型犬である。人懐っこく、私の知る限り、誰とでも仲良くなっている。

所用があって、私が通っている整骨院に一緒に行ったことがあったのだが、10分ほど目を離した間にそこの院長と仲良くなって、“お土産”を貰っていた。初めて入った喫茶店の店主とも、いつの間にか親しげに話し、「また、おいで」とお見送りをされていた。

 

 ここ数年、私自身の根底は「孤独な狼」だと思っていて、特に自分のセクシャリティを理解してからはその思考が加速していた。表面上は仲良く接しているが、一定のラインまで踏み込まれると逃げ出す。また、格好をつけたがるので、厚紙を切っては体に貼り付けていき、重さに耐えきれなくなって厚紙をつけたまま、その人の前から姿を消すということを繰り返していた。

 犬と出会った時もそうであって、「一定の距離を保って、踏み込まれたら交流を断とう」と考えていた。犬の話はとても面白いし、今まで出会って来た人種と真逆だから、自分の人生の刺激になるのではないか、と完全に自分本位で犬との交流を行うことを決めた。

 いざ交流してみると、やはり犬の話や行動は面白く、喉が枯れるほど声を上げて笑ってしまう。犬と会う時、大好きな作家の新刊を読むような気分になる。また、犬はよく私に“戦利品”を送信してくれるのだが、その一つ一つが面白くてわくわくする。犬とのメッセージ欄はまるでカラフルな琥珀糖の詰め合わせのようである。

 そうして交流を重ねるうちに、ある時、犬の毛を撫でたいという気持ちが沸いた。わしゃわしゃと撫でまわして思いっきり吸い込んでみたい、猫吸いならぬ、犬吸いだ。そこから犬の事が妙に愛おしくなって、ずっと犬と交流できればいいのに、と鋏を捨てるに至ったのである。

 

 さて、先日、私の家についに犬がやってきた。念願叶って、犬の毛を撫でまわすことが出来て、とても満足したし、私が作った料理を美味しいと言って食べる姿は愛らしく、思わず私のおかずを分けようか、と言いそうになった。(食べ差しは流石に失礼かと思って我慢した。)

 犬は義理堅く、お土産を持ってやってきてくれたのだが、持参したものは「歯が折れそうなぐらい硬いお煎餅」と「忍者塩」、「海洋プラスチックのタイル」だった。K点を越えるどころか、そのまま上空へ飛んでいくお土産のチョイス。我が家の壁は薄いので、お腹の底から笑い声をあげることが出来なかったのが心残りである。

 今は、海洋プラスチックの上に私の推しのアクリルスタンドと、それを取り囲むように置いた忍者塩のオブジェ(作・犬)を眺めながらこの原稿を書いている。文章に詰まると、それを眺めて、つい口元を綻ばせる。

 

 犬は私の事を「猫」だと言って愛でてくれている。大きな体躯に包まれると安心し、「孤独な狼」は消え失せる。不思議と、犬の前では厚紙を貼りつける必要も気持ちも湧いてこない。

 私の本質は何か、わからなくなってしまったが、今は目いっぱい犬を愛でようと思う。仮にも文章を生業として生きていこうと思っているのだから、犬を見習って、私も素直に言葉をかけよう。直接、言葉として発するのは恥ずかしいから、まずは文字から。

孤独のあかつき

孤独のあかつき