ラーメンショップに行ってみたい
ラーメンショップ
全国に300店以上展開されているラーメンチェーンだが、生まれも育ちも兵庫県の私には馴染みがない。
それもそのはずで、関西には殆ど店舗がないのだ。
ではなぜ知っているのかというと、飲食店を紹介するYouTubeのチャンネルで度々見かけるからで、藤子・F・不二雄作品のタイトルロゴのような看板、背脂たっぷりのこってり系スープに、謎の調味料"クマノテ"を絡ませたたっぷりのネギとそれらに絡まる太麺。
学生時代、こってり系ラーメンこそ至高と旗を立て、家族、友人知人に力説していた私にはスープの上でキラキラ光る油が宝石に見えた。
かつてマリリン・モンローはダイヤモンドは女の子の親友と歌ったが、私、泥沼ブブ美は背脂はブブ美の親友と歌いたい。
しかし、どんなに焦がれて、意識をしていても私の生活圏内でその名前を見かけることは無かったし、取り上げられる店舗は関東圏ばかりなので、関西にはないものだと思い込んでいた。
関東さんの食べ物だから向こうに行くタイミングがあったら食べたい、と思っていたらあったのだ、関西に。それも自宅から自転車で30分以内の距離だ。
大晦日、実家で例年通り怠惰かつ実に有意義な時間を炬燵の中送りながら、YouTubeの動画を少しかけては、ああでもないこうでもないと、ザッピングのように興味をあちこちに浮気させていたところ、件の店舗を紹介する動画は私の前に現れた。
もうね、齧り付きで動画をみましたよ、クリスマス前にトイザらスのチラシを見る子どものように。
そしてしばらくはそのお店「ニューラーメンショップ オリジン」のことが頭から離れなくなっていた。
でも、年始から予定が詰まっているし(リア充マウント)、定休日は日曜日のようだけど、年明け最初の土曜日は会社があるし(社畜)でしばらく行けそうになかった。
ニューラーメンショップの事を心に留めながら年始を過ごし、明日からいよいよ仕事始めのタイミングでもう一度お店について調べてみた。
そうするとお店のインスタグラムに年明け初めの日曜日はオープンしていると記載があった。
これは今週中に行ける!!
そこから私の脳内はニューラーメンショップに支配され、生活のすべてを日曜日のお昼に食べるラーメンに標準を合わせた。
まず、なるべく運動を行うようにし、通勤時は一駅歩くように心掛けた。
食事も肉類は控え、魚メインの食事にし、当日までなるべくあっさりしたものを食べるように努めた。
実にストイック。脳内ではボン・ジョヴィの『It's My Life』をが常に流れていた。
・・・努めるようにしたのだが、前日の夜に無性にソースとマヨネーズが食べたくなった。
野菜や果物の甘みがぎゅっと濃縮された茶色天使のソース、まろやかさの中にほんの少しの塩味がある白い悪魔のマヨネーズ。
混ざり合う天使と悪魔に鰹節と青のりをかけて口に頬張ると途端に広がり、鼻に抜ける潮の香りと香ばしさ。
紅一点の紅生姜も良い。白と緑、濃さの異なる茶色と一見地味な色の中に突然現れる赤色。
色合いも華やかになるのだが、ソースとマヨネーズでこってりとした口の中を酸味がスッキリさせてくれる。
「お好み焼き」
悪魔が私に囁いた。
そう、この欲求を満たせるのはお好み焼きしかない。
いや、たこ焼きという選択肢もあるのだが、たこ焼きは家で作るのは些か面倒だし、贔屓のたこ焼き屋は通勤経路から外れており、片道20分はかかる。
そうなるとやはりお好み焼きしかない。分かっていたんだ、とうの昔に。
そうなるとお好み焼きにはカリカリに焼いた豚バラだ。
牡蠣や海老などの海鮮も美味しいが、やっぱり1枚目は自身の油で揚げ焼きのようになった豚バラの食感と噛めば広がる脂の甘味を味わいたい。
豚バラ…紛うことなき肉だ。
それも豚の中でもいっとう油の多い部分。
しかし、明日の為に肉類を抜いてきた。ここで食べてしまったら明日の楽しみは半減するのではないか?
でも、お好み焼きは食べたい。それに数日とはいえ、久しぶりに飛び級の動物性油脂を胃に流し込んで、私の体は受け入れることができるのだろうか。
脳内でメルキオール、バルタザール、カスパールの3人に相談し、三者一致で欲望に従うべきという回答が出たので、豚バラのお好み焼きを作りました。
流石に今までの努力が無駄になるような気もするがので、半分豆腐のヘルシーなお好み焼きして。
【材料】
豆腐150g
お好み焼きの粉(袋の裏に書いている規定量の半分)
・片栗粉大さじ2
・キャベツ、豚肉などの好みの具材
・卵1個
・あれば魚粉
①豆腐をボールにあけて、泡だて器で原型がないくらいまで混ぜる。豆腐に「お前は豆腐だった」という記憶を無くさせるぐらいに。
生クリームを混ぜるように縦に円を描くのではなく、底にぐるぐると円を描くような感じ、ジャムおじさんがカレーパンマンのカレーを仕込んでいるような感じで混ぜると早く形がなくなります。
②お好み焼きの粉、キャベツ、卵、あれば魚粉を入れて混ぜる。混ざったら片栗粉をいれてまた混ぜる。
全体の粉っぽさが無くなったらOK。
③フライパンに油を敷いて中火で温める。
温まったら、生地を流して具材を並べる。
④暫く放置。焦げているのか心配になるくらいがベスト。持ち上げてみて、裏がカリカリになっていたらひっくり返してOK。
中火で4〜5分くらいな気がする。
豆腐に水分が多いので、我慢できずにびっくり返しちゃうと崩れる。崩れちゃうと萎えるよね。
⑤裏面も焼いたら完成。
あとはお好みでソース、マヨネーズ、青のり、鰹節、紅生姜をかける。

豆腐を使っているので、カロリーは抑えられるというのも大きいですが、外はカリカリ、中はふわふわなお好み焼きを簡単に作ることができる。
ガッツリ食べたように見えて実はヘルシーです。マヨネーズがかかっていたとしてもね。きっと。
さて、日曜日。
私は近くのレンタルサイクルで自転車を借りて憧れの地へと向かった。
脳内でポケモンのサイクリングロードを流しながらごきげんに自転車を漕いで、20分程度で到着。

真っ赤な看板!!!
積まれたラーメンショップの要とも言える大量のネギ!!!
スキップからトリプルアクセルをキメて店内に入りたいという気持ちを抑えながら、「散歩していたらお腹が空いて、たまたま入りましたのよ」と冷静を装いながら入店。ここに来るためにわざわざチャリンコを借りているのにね。
脳内で散々シュミレーションした「ネギチャーシューメン」と「半ライス」の食券を購入してカウンターに着席。ラーメンの到着を今か今かと待ちわびた。

鼻腔にひっつくような豚骨スープの香りで私の胃はTWICEのThe feelsを踊りだした。
麺を覆い尽くす白ネギと添えられた白ゴマ。白ネギにはクマノテという調味料に絡められていると聞いたが、どんな味なのだろう。
チャーシューは箸で持ち上げたら崩れてしまいそうなくらいトロトロだし、添えられたワカメは小休止のためのものなのか。
チャーシューを巻きたいが為にご飯を注文したが、ワカメと一緒に掻き込んでも美味しそう。
そして何より大きい。写真から伝わりづらいですが、想像の1.5倍大きく、しこたまお腹を減らしていったものの、半ライスを注文したことを少し後悔した。
しかし、物価高の昨今。
小さくてしょんぼりすることはあれど、大きくて驚くことはそうそうないよね。
早速食べてみると、見た目より脂っこくない。
背脂の量を「普通」にしたとはいえ、浮かぶ背脂とラーメンの大きさに少々たじろいでしまったが、口に含むとスルスルと飲めてしまう。
中太麺を持ち上げると、ラーメンショップの一丁目一番地であるネギを巻き込きこまれる。そのまま口に頬張ると、モチモチした食感とネギのシャキシャキした食感が楽しい。
麺にもスープがよく絡むので麺の甘みとスープのこってり感を同時に味わえ、箸がどんどん進んだ。
トロトロのチャーシューが崩れないように、そっと箸で持ち上げてご飯の上に乗せる。
分厚いチャーシューでなんとかご飯で巻いて口に運ぶと、肉の旨味とご飯の甘み広がって、チャーシューの食べ方を悩ませた。
チャーシュー単体で食べてもいいし、スタンダードに麺やスープと一緒に、いやもう一度ご飯と…。様々な食べ方を選り好みしては試して、と繰り返しているといつの間にか器とご飯は空になっていた。
満腹から来る眠気と、ネギとにんにく由来の多幸感に包まれながら自転車をえっちらおっちら漕ぎながら帰途へとついた。
結局、件の"クマノテ"にはごま油が使われていることしかわからなかったけれど、これを書いている今も、その味を思い出して自転車に飛び乗ろうとしてしまっている。
【行ったお店】
たまご屋さんで卵を買う
商店街が好きだ。
特にアーケードのある商店街に心が惹かれる。
なぜ好きなのか考えてみたところ、理由は幼少期に起因する。
そもそも私が育った町には商店街というものはなく、駅前やバス停周辺に構えられたスーパーと小さな個人店が入ったショッピングセンターと町内のあちらこちらに商店がある程度で、駅前にわずかにお店が軒を連ねているものの商店街とはちょっと違う。なので、日常では商店街というものに馴染みが無かった。
しかし、祖父母が遊びに来てくれた際には電車やバスで神戸の兵庫区にある東山商店街によく連れていってもらった。
小さい頃、それも乳飲み子から人間に進化したての私は文字通り「玉のように」可愛らしかった。
なので商店街に向かう道中、それはもう頻繁に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、何歳?」と聞かれると必ずムチムチの指を三本立てて自分の年齢を誇示する。するとみんな「可愛い」「賢い」と私を褒めそやしてくれた。自己肯定感がメキメキ上がる。この世の春です。気持ちがいい。私の天下であり、私が正義だ。みんな私のもとにひれ伏しなさい。
知らない人に褒められるのもそうですが、一緒に買物に行くとあれこれ買ってもらえる。
お菓子やおもちゃ、アンパンマンのポシェット。
行くと楽しいことが起こる場所=商店街という刷り込みがあったせいなのか、今でも商店街に行くのはワクワクして好きなのだ。
あとは当時大好きだったアニメ、「3丁目のタマ」の町並みが、東山商店街のある湊川に似ていた。
タマの町には商店街はないのだけれど、アニメ登場するお店と東山商店街にあるお店屋さんが同じだった。
豆腐屋さん、大きな煙突のある銭湯、遊具のある公園に川にかかる橋…これらすべてが揃っていたから、私はこの街がタマちゃんたちの街だと認識して、行くたびに彼らに会えないかワクワクしていた。かわいいね、小さい頃の私。
さて、現在住んでいる場所は徒歩圏内に商店街があるし、すこし足を伸ばせば八百屋さん、魚屋さん、お肉屋さんはもちろん、街のマダムの流行を発信するブティックなど昔ながらの商店街がいくつもある。
先述の東山商店街も歩いていける距離にあって、週に一度の頻度で足を運んでいる。
そして、自分の台所を持つようになって、兼ね兼ね憧れていたことを実行した。
「〇〇屋さんで買い物をする」だ。
先述の通り、私が住んでいた街には商店街がなかった。
お肉や魚はスーパーでパック詰めされたものを買っていたし、豆腐屋さんなんてもちろんなかった。だから、3丁目のタマのタケシくんのようにボウルを持って豆腐を買いに行ったことなんてない。
八百屋さんがあったこともあるのだが、お店がとても広くて、どちらかというとスーパーのようだった。
祖父母と東山商店街に行った際に、祖母や周りのお客さんがお店の人達と雑談しながら買い物をする姿にとても憧れた。なんだかとてもかっこよく見えたし、祖母が「今夜はすき焼きやから」と冷蔵庫から取り出した白い紙に包まれたお肉は、パックで売られているお肉よりも美味しそうにみえた。
だから、一人暮らしをしてしばらくはお肉屋さんや豆腐屋さんで定期的に買い物をしていたのだが、どうしても行けないお店があった。
卵屋さんだ。
実のところ、当初はそのお店を卵屋さんと認識していなかった。
いつもお店が閉まっているからだ。
私は大抵午前中に商店街で買い物をして、午後の早い時間には帰宅と散歩を兼ねて家に向かい始める。
ある時、掃除が長引いてしまって、おやつ時に商店街に立ち寄った際に木枠の中にコロコロと並べられた卵を見て、その謎のお店が卵屋さんであることを知った。
このとき、我が家の冷蔵庫にはドラッグストアで10個で201円で買った卵が鎮座していたため購入に至らなかった。
値札には1個31円と書かれており、10個買うと310円となるため、当時の私には割高に感じた。なので、しばらくの間、卵はスーパーやドラッグストアで購入していた。
そうこうしているうちに新型コロナの影響で鶏卵の値段が上がり、10個で300円近い値段になってくると、これはあの卵屋さんで買うのと変わらないのではないか?という考えに至る。
しかし、今日こそは買うぞ!と意気込んで行ったものの、何度かお店が開いていない空振りを経験し、やっと卵屋さんで念願の買い物をすることができた。
店主のおっちゃんは、一見無愛想なのだが、話し掛けてみると気さくで、お店の営業時間やおっちゃんのナイトルーティン、おすすめのテレビ番組など色々情報を引き出せた。
おっちゃんのところで買った玉子は黄身が大きく、プリプリしている。
おっちゃん曰く、餌とお水をたっぷり与えて育っているので鶏に必要な栄養がしっかり与えられているからお安い玉子と比べて水っぽくない。
堺雅人のドラマ、VIVANで目玉焼きを焼く際に、ザルに卵を割ってから、余分な水分を落として割るとホテルの目玉焼きのようになる、というシーンがあったが、おっちゃんの卵で作った目玉焼きはそんなことをしなくてもプリプリの目玉焼きになる。
料理のポテンシャルをいくつも上げてくれる魔法のおっちゃんの卵。
そんなおっちゃんの卵を使ってだし巻きやオムライス…と玉子が主役の料理を作ってきたが、最近はあえて脇役で使うレシピがお気に入りだ。
たとえ脇役であってもその存在感は消えない。ちょうどVIVANで堺雅人の脇を固める阿部寛のように。
おすすめはオテル・ドゥ・ミクニの三國シェフのキャベツのスープと賛否両論の笠原シェフのブロッコリーとエビのふわふわ揚げ。
三國シェフのキャベツのスープは本当に簡単。
キャベツを千切りにしたものを、和風出汁と鳥ミンチ、味付けに塩麹をいれて煮込むとできる。
15分程度でできるし、体もあったまってお腹も膨らむので、すぐに私の定番レシピになった。それどころか、最早殿堂入りすらしている。
肝心の卵はというと、白身は溶いてスープにいれ、卵黄はトッピングのようにスープのトップオブ真ん中に乗せる。
食べる際に卵黄はすぐに崩しても良いのだが、私は崩さずに少し置いて熱の伝わった、ほんの少しトロトロになった黄身を食べるのが好きだ。

キャベツは自分でカットをしてもいいし、スーパーに売っている千切りが余っていたりするとそれを使ったりもする。
キャベツを自分で千切りしたキャベツを使うほうが甘みを感じるのだけれど、美味しさよりも手軽さを取りたい時ってあるやん。
出汁もきっと三國シェフが紹介しているレシピで作ったらもっと美味しいと思うのだけれど、我が家は水に昆布と鰹節を一晩浸した出汁を作り置きしているのでそれで作っている。
三國シェフはフランス料理のシェフなので、レシピを紹介する際は必ず、フランス語で料理名を教えてくれる。「ポテ・ジャポネーズ」と言うらしく、「ポテ」は煮込んだもの、という意味で、コロコロした見た目のシェフが「ポテ」と何度も言う姿はとても可愛らしい。
ジャポネーズとついている通り和風のスープ。
三國シェフはダイエットや飲みすぎた日に良いと言っていたけれど、私は食べすぎた翌日の朝に食べる事が多い。
朝起きて、胃が重たい時に無性に食べたくなる。
先日父親のおごりで焼き肉に行った翌日ももちろん食べた。
酷使した胃を優しく労ってくれるのだ。
ブロッコリーとエビのふわふわ揚げは、平たく言えばブロッコリーとエビのかき揚げだが、衣に角が立った卵白を使う。これで揚げるとふわふわになって美味しいのだ。
では、卵黄はどう使うのかというと大根おろしとみりん、醤油と合わせてソースにして食べる。
これが訳がわからなくなるほど美味しい。
醤油の塩味とみりんの甘さ、それをさらにまろやかにする卵黄。
これをブロッコリーとエビのかき揚げにかけるとあっという間に食べられてしまう。
それぞれの元動画は下に貼っておくので、是非良い卵が手に入ったなら試してみてほしい。
さて、おっちゃんに買いたい卵の個数を告げると、ぶら下がった電球に卵を翳して何やらチェックをしてくれる。
何をしているのか聞いてみると、ひび割れが無いかチェックしているのだそうだ。
おっちゃんのお墨付きが出たものを新聞紙に包んでくれて、お家に持って帰ることができる。
そんなこだわり卵を今日はどうやって食べよう、と家までの道のりで考えるのが楽しい。
【参照レシピ】
黒と黄色より白
人生において、白塗りの集団と歩く、それも屋外を練り歩いたことがある人は何人いるだろう。
11月23日、阪神・オリックスの優勝パレードに沸く人々を背に、私は京阪電車に揺られてひらかたパークを目指していた。
恋人に会いに行くためだ。でも、デートじゃない。
数日前、恋人からひらかたパークでイベントがあり、カンボジアの支援ブースを出展すること聞かされた。
恋人はカンボジア支援の活動をしていて、11月の初めにも向こうへ行っており、現地の教育省ともやり取りを行っている。
そこで固まった企画の支援を呼びかけるブースをひらパーで出すそうだ。
せっかくの休日に一緒に過ごせないのかと少し気分が下がりつつも、この人にはこの人の活動があるし、それを制限するのは嫌だ。それに私がもしこの人の立場だったら、それを笑顔で応援して欲しいと思う。
なので「頑張ってね」と言いかけた所、「前に話した白塗りのビジュアル系バンドでやる」と恋人が言った。
―白塗りのビジュアル系バンド
これは1度、恋人とその近しい仲間たちとで"演奏したら即解散 究極のビジュアル系バンド"というコンセプトで色々と活動しようと立ち上げた、メンバー8人全員が顔面白塗りのバンドのことである。
春に結成をしたが、夏場に白塗りは熱いし、崩れるということでビジュアル写真や映像を1度撮ったきり、涼しくなるまで活動を休止していた。
件の撮影は私と付き合う前のことであったため、その時の様子は恋人からの伝聞でしか知らないが、次々と産み出されていく白塗りの男たちを見て、メンバーのお子さん(1歳)が恐怖で泣き出したり(お父さんは撮影参加を断念したらしい)、撮影を見ていた地元の高校生が「バンド名を教えてください。Spotifyで聴きます!」と嬉しそうに話しかけてきたりと初っ端から男子大学生のデカ盛りランチ並みの情報量の多さ。
ちなみに演奏したら即解散なので、オリジナル曲どころか演奏している音源すら無い。
過去にその話をお腹を抱えて聞いていたので、かねてより1度見てみたいと思っていた。
と、いうことは今がそのチャンスなのでは?と恋人にそのイベントを見に行ってもいいかお伺いをたてた。
恋人は二つ返事で了承し、カメラマンが足りていないことを告げられ、それではとマネージャー兼カメラマンで参加することになった。
そして当日、優勝パレードで賑わう人混みをかき分け、電車に乗り込んだ。
電車に揺られながら、仕事のお手伝いにとはいえ、恋人に会えることに胸を高鳴らせながら早く着かないか、探偵はBARにいるの大泉洋のように「急いでくれ!!」と窓を叩きたい衝動に駆られた。
最寄りの枚方公園駅からは殆ど一本道で、走りたい衝動を胸に秘めつつ、あくまで冷静かつスマートに歩くことを考えた。
ひらパーへ向かう間、脳内ではチャットモンチーの『風吹けば恋』が流れていて、自分も中々の乙女だなぁと破顔した。
さて、無事に入口につき、関係者パスを受け取るために恋人へ着いた旨をメッセージを送り柵越しに恋人の到着をいまか今かと待ちわびた。
しかし、そこで冷静になる。
あの人白塗りやん、と。
しかもただの白塗りではない。海賊のコスプレをした白塗り髭ロン毛だ。
決して白塗りであること忘れていたわけではない。
むしろそれを面白がって来ている。
しかし、白塗りの集団と一緒に、何も仮装せずに歩くことを考えていなかった。
彼らは白塗りだから注目は浴びるけれど、素顔はわからない。
しかし、私は普段通りの格好でここに来てしまった。
途端に素顔対策を講じる。
今あるもので、自然に顔を隠せるものは…ない。
駄目だ、浮かばない。
ああ、まだ来るな。
なにが「風!風!背中を押してよ」だ。
押すな。顔面の白塗りを吹き飛ばせ。
自宅にあるサングラスを恋しく思っていると、しきりに二度見で振り返える人や、おねしょをした時のように顔をくしゃくしゃにした子供が目についた。
まさかと思った瞬間、白塗りの海賊が目に入った。
しかし、恋をする気持ちって凄いですね。
恋人が白塗りで現れても、姿を見かけるとときめいちゃうのだから。
科学実験の成れの果てで異形へ変容した恋人と再会した人の気持ちを味わえた。
こんな気持ち味わえるのはハリウッド俳優しかいないだろう。
パスを受け取り、バンドメンバーやブースの主催の方々にも挨拶を行う。
幸い、主催の方々は白塗りではなく、ごく普通の格好をされていた。
優しい方々だったが、そもそもこの人たちが白塗りバンドにオファーをかけたのだ。
穏やかな仏様のような顔の下にどんな狂気が孕んでいるかワクワクする。
ここでバンドについて紹介したい。
A Pointless Story

地元泉大津を中心に、精力的に活動する"演奏したら即解散 究極のビジュアル系バンド"である。
リーダーのタイガー・シャーク氏に結成の目的を聞いてみたところ、『「音楽に対する新しいアプローチ」と演奏以外で音楽活動をどこまでできるかチャレンジする、という2つの目的から成ります。』とのこと。
ちなみにA Pointless Storyとは"薄っぺらい話"という意味である。
全然薄っぺらくないじゃないか。
そして、今回参加したメンバーはこの4人。

タイガー・シャーク
バンドのリーダー。
唯一、小学生からチェキのご指名があった。

ミナミ・クミノキ
着ている衣装はだんじりのもの。
持っているギターは弾けない。

TOSHI
AKIRAJr.
一番腰が低く、お辞儀がガラケー。
子供から度々剣を奪われる。

ゲリラ・ガーディアンズ
最年少。お肌ツルツル。
かわいい。
サングラスを取るとつぶらな瞳。
かわいい。
ブースの宣伝がてら園内を練り歩いたのだが、すれ違う人々の視線を奪いっぱなしである。
興味津々と見つめてくる人もいれば、恐怖に顔を引き攣らせる子どもがいたりと、まるで人里に降りてきたモンスターである。
楽しそうにメリーゴーランドに乗っていた、外国人の子どもたちの笑顔を一目で奪い去り、目を丸くさせる破壊力。
海外のお友達みんな、にほんでは昔から舞妓さんとかバカ殿様とか、白塗りの文化があるんだよ。
しかし、どんなに怯えられても彼らのファンサービスは素晴らしかった。
興味深そうに見つめてくる子供には手を振り、話しかけてくる子供には笑顔で返事する。まるでディズニーのパレードのよう。
お子さんを連れたお母様から「悪いことをするとでてきますよね!?」と話し掛けられた際も、「いい子にしていないと出てくるよ〜!」とキチンと手を振っていた。子どものしつけまでできるバンド、それがA Pointless Story。
略してポイストでこざいます。
もちろん、怯えられるだけではない。
「絶叫の滝 バッシュ」という乗り物に乗った際、こちらのアトラクションは30分ほど並んだのだが、順番待ちの間に同じように並んでいる小学生たちととても仲良くなっていた。
出発の際に「行ってくるなー!」「がんばれー!」なんて、なんとも心温まるやりとりをしていた。
クライマックスで滝を急降下で滑り落ちる時なんて、「来たで!!来たで!!」とお子さんを呼ぶお母さんもいた。
子どもだけでなく、主婦も虜にするバンド、それがA Pointless Story。
誕生日の女の子と出会ったときには全員全力でお祝いし、記念撮影をしていた。
楽しい誕生日を演出するバンド、それがA Pointless Story。
演奏しないバンド、A Pointless Story。
演奏せずにどれだけ音楽活動ができるのか、彼らの今後に目が離せない。
カンボジアの朝、元町の朝
旅行というものに興味がなかった。
そもそも住んでいる所が観光地だし、電車にすこし揺られれば大阪や京都に辿り着ける。
雑誌の観光地の紹介を見て行ってみたい、と思うことはあっても、思うだけで行動に移すことはあまりなかった。
なので、旅行に行く際は友人や家族などの周囲の人間に引っ張られて行くことが殆どで、加えて高所恐怖症のため、基本的には陸路で行ける場所を選んでいた。
唯一海外へ行ったのは修学旅行の台湾で、行き帰りの飛行機は恐怖のあまり、友人の手首に痣ができるほど握ってしまったことがある。
なので、海外なんて以ての外と思っていた。
しかし、最近は海外に行きたいと思っている。
海外、カンボジアに行ってみたい。
今月の頭まで犬がカンボジアに行っていた。
仕事の関係だそうで、滞在中は現地の写真や動画を沢山送ってくれた。
そこに写っている穏やかな空気、現地の人の笑顔。
単純に「いいな」と思った。
ピリついている空気が写真や映像から伝わってこないのだ。
全身が暖かい毛布に包まれているような空気感。
味わってみたい。
あと、カンボジアは朝日がとても綺麗らしい。
何気なく読み返していた片桐はいりさんのエッセイでカンボジアの朝日について書いてある部分があった。
好きな本で、何度も読み返していたはずなのだが、その時は特に気にも留めず、話のメインであるヘルシンキの食事、ベリーたっぷりの料理やどこにでも現れるじゃがいも、苦労して手に入れたニラの話など、食べ物の話題に心を膨らませていた。
しかし、改めて読んでみると、キラキラと輝くカンボジアの朝日を顔いっぱいに受けてみたくなった。
カンボジアに行ってみたい。
犬の影響を受けたのかと言われると、なんとなく違う気がする。
影響を受ける、というよりは考えが組み替えられて、以前は目につかなかったものが、視界に入るようになってきたというのが私の感覚だ。
休日、日が昇り切る前の朝日を浴びながら散歩をするのは好きだし、穏やかに過ごすのは言わずもがなだ。
犬のカンボジアのお土産話を聞いて、行きたい気持ちがさらに強まったのも事実だが。
ところでカンボジアと日本には時差が2時間ある。
朝の7時頃に件のエッセイのカンボジアについて書かれている所を読むと、ちょうど今頃、こんな朝日がカンボジアを照らし始めているのかと、思いを馳せてちょっぴり旅行に行った気分に浸る。
ほんの数ヶ月まで興味がなかった国の朝日を熱望する自分に少し笑ってしまう。
犬が向こうに行っている間、会いたくなった夜には早めに起きてこの儀式を行ったし、今でも心がすこし疲れた日にもしている。
カンボジアの朝日と空気を纏いたい。いつか絶対。
そう思いながら、今日も職場のビルや家のベランダから階下を見下ろしている。
飛行機に乗るため、高所恐怖症を克服する訓練だ。
住んでいる街について知りたい
全知全能の神になりたいとは思わないけど、せめて自分の知っている街については知っておきたいと思っている。だから時間を見つけては散歩に出かけて、時間と足の裏がゆるす限り徒歩で移動する。気ままにワクワクする方へ足を向けていると、自分だけのお気に入りのスポットを見つけることが出来るのだ。それはお店だったり、公園だったり、神社だったりと様々で、見つけた場所は、お気に入りの服ばかりが犇めき合うクローゼットのように、記憶にぶら下げておく。そうして服を着るようにして、お気に入りの場所を目的地にして新たな散歩へと向かうのだ。
私にとって行き先は服と同じなので、その雰囲気や景色を他人に見せたいという欲が湧いてくる。犬にも今のように気軽に触れることが出来る前からお気に入りの場所を紹介していたし、それは関係が変わった今でも同じだ。今の関係になる前に、お気に入りの神社を案内した帰り道に、近くに神道や仏教、カトリック等とは異なった、謎の宗教色が強い建物があることを思い出して伝えた。それでは見に行ってみようと前を通ったところ、その団体が主催する青空市の告知を犬が見つけた。一見すると、普通の地域のイベントの案内のようだが、「有機野菜」「卵」「手作りお菓子」の中に「御神水」というキーワードを見つけて、私たちははしゃいだ。うっすらと漂っていた「らしさ」が確信へと変わった。
犬はそれを興味深そうに写真に納め、後日、そのお誘いを受けることになる。因みにこれが、犬と深い関係になって初めて二人で出かけた先になる。断わっておくが、誘われたのも、了承したのもそういう仲になる前だ。でも、付き合って初めてのデートが「謎の宗教団体の青空市」というのはエピソードとして非常に美味しいので、大いに利用している。犬の知り合いを紹介してもらった時も、これで笑いをとれた。
さて、イベントに向かうには正装をしなければならない。中堅社会人なのでTPOをわきまえた服装をしなければ。なので、ドラマ「TRICK」の山田のような地味な服装で行くことを犬に伝えた。犬からは上田教授のようなチノパンでカッターシャツにベストを着るという返答の後に、教授の著書『どんと来い、超常現象』を購入したと連絡があった。その報告を読んで、爆笑するのと同時に。教授の著書まで購入することを思いつかなかったことに唇を噛んだ。
TRICKのドラマや劇場版、スピンオフの矢部警部補まで見て、準備を整えて当日を迎えた。現場に到着すると、にこやかに迎えてくれるお店の方々。私の知り合いの中で最も社交性が高い人物である犬は、宗教団体の相手でも物怖じすること無く話しをしている。私も、いつ勧誘を受けるのか緊張しながらも、努めてそれを隠すように努力し、向こうさんの返事にうんうんと頷いた。社交性の塊である犬は相手にドンドン質問を投げる。貰った回答を踏まえてさらに質問を投げるので、犬に対する向こうの好感度が質問をするたびに上がっているのがみてとれた。売られている野菜の事、どれぐらいの頻度で開催されているのかなど聞き出し、無理矢理売りつけられたり、一括購入させられたりしないものなのか、と緊張を少し解いたところ、「市販のものには良くないものが入っているから」という如何にもなキーワードが発せられ、途端に私の精神は現場復帰した。しかし、以降はそれらしいワードがでることは無く、ご神体にもお参りを行った。日本ではメジャーではない参拝方法だったが、後から調べてみると、海外ではメジャーなもので、独自に進化したものではないようだった。
参拝を終えて帰ろうとしたところ、犬が「チラシに書いてある御神水はどれですか?」と質問をした。あまりに唐突だったため、「なにを言っている」と驚愕の表情を浮かべそうになったが、咄嗟に「私も気になる」と興味深々のような表情を浮かべることができた。たくさんのドラマや映画を見てきた成果がここででた。
相手方は丁寧に「こちらで売っています」と売り場へ案内してくれた。机の上には3種類のペットボトルが並んでおり、一見すると何が違うのかわからない。犬もそれは同じで「これって何が違うんですか?」と素直に聞いた。躊躇するような質問も平気でする犬の肝が欲しい。
すると売り場の方は真ん中に置かれたものを指さし、「これは陽の気がたくさん詰まっています」と答え、犬も「じゃあ、その陽の気が沢山詰まっているものをください」と言って購入して帰った。
御神水は犬の友人にプレゼントされ、後日友人による食レポ動画が送られてきた。味と効果に関しては、ここでは触れないでおく。
さて、初デートが中々トリッキーな場所だったが、実は宗教団体以外の場所にも行った。
9月の頭、まだまだ夏の気配が背中にくっついている日中だったが、夕方には秋の訪れを感じる日だった。
青い空に浮かぶ雲がほんのりピンク色に薄付く中、音楽を聴きながら飲んだアイスコーヒーの味と、秋風を頬に受けながら微睡んだ時間も私は忘れないだろう。
宗教団体のような刺激的な体験も、音楽を聴きながら外でのんびりと過ごす時間、どちらもこれから沢山、犬と体験できたら良いなと思う。



